20年弱程前から大切にしてきた血の末裔が現在につながっています。
今日は当店の系統の中でも、GXのラベルを冠するものの背景をご紹介致します。
※当時はデジカメの性能もイマイチで写真を撮ることがそれなりに大ごとでした
すべての個体の画像を残しておりませんので、部分的に画像が足りないことがあります
ご了承ください
特に2023年開業段階では、当店のホペイでGXを関するものは全てGX50系です。
当家にとって、本格的に計画が実り、ここまでの軌跡につながるスタートといえる2015年誕生の3大系統群は、2つが当家では淘汰され、1つが残ったということになります。
その、GX50の誕生背景を、系統に込められた考えも含めご紹介します。
①岐路をつくった江西省玉山
画像が残っていませんが、2006年に江西省玉山産F3のホペイを入手します。重なりもあまりよくないし、当時人気であった顎の滑らかなカーブもありません。角ばった四角に近いシルエットをしており、内歯がべたっと横に倒れ込んだ独特の個体でした。そして、とんでもなく太く厚い個体でした。ショップでは種親や兄弟も見せて頂きましたが、軒並みゴリゴリのモンスター達で、その頃にはあまり見ることのなかったエグみが、個体差に魅了された私には大変魅力的に映りました。
※いまでは「エグい」という形容が当たり前に使われるようになりましたが
江西省玉山産は、次世代を多数採ったのですが、画像が残っていません。辛うじて残っている画像は以下のものです(2007年羽化)が、ご覧の通り親とは似ても似つかない華奢な個体ばかりが誕生したからでした。
ショップへは悪い意味ではなく結果の報告に伺ったのですが、そこでは同血統のさらに太い個体を購入した方が居合わせており、やはり次世代は華奢で小ぶりであったことを話されておりました。また、ショップとしても、他産地でF8まで問題なかったところがこの江西玉山は難しく、明らかに累代の弊害が早く出ているというお話を正直にされていました。この日から私は累代指数を単純に重ねていくことに若干の抵抗を持つようになり、F4までの8年くらいをインライン累代指数の天井にしようと考え始めます。
➁理想のホペイとの出会い-TP:E-X系統
2007年冬、ドルクスセンター桜GENZI様の特価生体コーナーでTP:E-X系統を入手します。
先述の遠り”異質感”を一つの魅力と捉えていた私にとって、異常な威圧感を醸し出す個体ばかりが並ぶTP:Eは憧れの存在でした。今は北峰産が普及したこともあって桜GENZIホペイと言えば順昌!という感覚の方が少なくないと思いますが、雑誌への掲載の影響なども含めTP:Eは一時的に順昌を上回るカリスマ性を持っていました。ホペイは本来腹部がやや大き目な種であるため、累代指数が若い個体が多いこの時代において、超逆三角形に見えるシルエットは革命的でもありました。
当時は最新情報として更新される個体が”時価”であったので、恐ろしくて手が出せませんでしたので、特価生体コーナーで値段が記された個体を購入しました(¥9,800)。「これは、おすすめですよ」という購入時の言葉が意外と薄れないものです。とても綺麗な個体に見えますが、ざらっざらの鮫肌が頭部の隆起を隠しているためにそう見えます。実際は以下のような見え方に近い1頭でした(同個体画像)。
四角くハンマーのような頭と、独特の複眼付近の突起、そして非常にいかついいかり肩に魅了されました。この個体は64㎜でした。たった64㎜の個体が、これまで手にしてきたどのような個体よりも存在感を放っているように私には見えました。それほどこの1頭に惚れ込んでしまったということでした。余談ですが、先の画像に見られるエリトラの縦溝は今の当家の個体群にも引き継がれています。これは”エリトラのリンクルス”と呼ばれてきました。見分けがつきにくいため、血統管理の実績を信頼して判断するしかありませんが、当時から引き継がれている羽皺は個体の不健全さを示すものではありません(TP:E以外にもそのようなものがあります)。外翅の縦皺は一つのホペイの個性・独自性として、15年以上前から認知され、大切にされてきた一つの特徴です。
③理想のホペイとの出会い-HO8系統
この頃は色々な血統が流通しておりました。先の江西省玉山の件があったので、TP:Eを手にしたとき、私は二つのことを考えました。
①インラインで大きくして異質感を堪能したい
➁累代が重なるのが恐ろしいのでアウト交配でCBF1というスタートを立てたい
TP:Eは購入時、F4でした。奇しくも江西省玉山が累代の弊害を発生させた累代指数と同じであったため、インラインだけで繋ぐことに抵抗があり、同系統メスを2頭追加購入しました。結果的に3メスを手にすることになりました。2メスをインラインで使用し、1メスをアウトラインで使用することにしました。これが、現在につながる私の血統・系統構築の方法が産声を上げた瞬間でもありました。オス親を数代に渡って使うだけではなく、その腹の次世代を1年で使い切らず数年ストックしておいたりして、数年単位での血統構築計画を練るという取り組みも顕著になっていきました。
・まず2008年にTP:Eをインラインで2メスから子を採る
・1メスは温存しておく
・2009年交配の次世代の個体たちを見て、CBF1を立てるために組み合わせる血統を考える
2009年にTP:Eの次世代が誕生しました。不眠で羽化に立ち会ったのが懐かしいです。
期待通りの四角い頭の発現に歓喜しました。
次世代を簡単にご紹介します。
TP:E-X(F5) 75㎜、先の蛹が羽化した個体です
TP:E-X(F5) 72㎜
TP:E-X(F5) 76㎜
このように見てみると、やっぱり今のGXの個体群にある独特の雰囲気に近しいものを持っていると感じます。この個体たちの個性が引き継がれてきました。
さて、この次世代を見て、私は以下のことを考えました。
・顎が短いともっと頭に似合いそうだ
顎の太さに無頓着であった私は、当時は顎幅については2歩も3歩も後ろを走るブリーダーでした。私は、顎基部幅という1次元数値だけではなく、全体を見て存在感や凄みを感じられるかどうかという虫のオーラを磨き上げることに執着していました。そこで出会ったのが、HO8血統でした。
2008年入手 HO8 福建省北峰 F7 75㎜
この頃はまだ短歯という言葉を使うブリーダーは少数でした。先の通り、TP:Eを中心に次世代の系統展開を考え、TP:Eのオーラをより高めるために、私は以下の2つを考えました。そして後者については新しい血を導入することで改良を測ることを考えました。
①頭の威圧感を磨き上げること
➁その頭に似合った顎をくっつけること
➁について私は、短歯か強く湾曲した顎が頭部周辺の威圧感に繋がっていくのではないかと考えました。この個体はHO8という血統ですが、譲渡下さった方がGOWASというあだ名をつけて大切にされていたものでした。複数の同腹個体が販売されており、どれも垂涎もののカッコよさだったのですが、その中から私はこの個体を選びました。この個体は突出して顎が短く、また顎先が曲がった個体でした。先の計画にぴったりとはまりそうな気がしたのでした。
※HO8は当時において不全ながら85mm付近を出していた血統でしたので、この個体のお陰でのちにGXが体重を乗せやすくなったと考えています。
同個体です。頭胸腹が大きすぎるように見えるほど、顎の短い個体でした。
のぺっとした美しい個体で、この美しさも現在のGXに片鱗を見ることができます。
④GXの誕生
2009年に、2007年に購入したTP:E(X系統)のメス(2年目)に、③で記載の思惑を踏まえ、2008年購入のHO8を交配しました。これがGXの始まりです。
→2009年に後述の交配を行った:
HO8(2008年購入)オス×TP:E(2007年購入:2年目)メス
目指したのは威圧感あふれるTP:Eの独特さを残したまま巨大化させ、顎を短めにして、顎のカーブを強めることでした。使用したのは以下のメスです。今でも当家のメスには以下のような形状のメスが多いです。メスにも10年以上前の親個体の形状が踏襲されていることは振り返れば感慨深いです。
TP:E(X)福建省北峰F4 48mm
余談ですが、HO8については2メスを追加購入し、1オス3メス体制で繁殖に取り組みましたが、全てのメスが子を1頭も残すことができませんでした。また、累代指数をご覧頂いてわかるように、HO8は現在流通する超有名ブランドとも関係性が強い血統でした。このことから、採卵をストレスフリーに行えて、次世代をきちんと確保できることも視野に入れ、血を磨き上げていかねば、という考え方が私の中で浮き彫りになっていきます。
⑤GXの誕生・一時インライン同腹存続の消滅
初代GXは2010年に羽化をしています。当時で70mm後半、頭は28mm付近を連発したので、相当良いスペックを持っていました。
初代GX、福建省北峰79mm
今のGXにより近しい雰囲気です。F2は2012年羽化の予定でした。しかし、2012年、私は熱を上げていた順昌の飼育と、こっそり作成していた超極太北峰(張飛・皇帝)の方に注力をし過ぎ、メスを死滅させてしまいます。その結果、GXを意図せず同腹兄弟姉妹同士のインラインで繋げられなくなります。
⑥GXの飛躍
種親となったオス個体達
◆バックしてもらったGX(F2)◆
2012年初頭にGXを共有していたクワ友よりGXをバックして頂きます。同年初夏には交配をし、2013年に復活のGXが誕生します(GX13 ※後の図を参照)。
※バックしてもらったGX-F2オス
◆幼虫バックをしてもらったGX(F2)◆
F2は幼虫の援軍もあり、以下のGXインラインのF2も誕生しますが、種親にはしませんでした。というのは、この頃には先述の極太北峰を手にしていたからです。
※幼虫バックをしてもらったものが羽化したうちの1頭
※種親にしていないため以降の系統への関連性はありません
◆極太K系統◆
セブンオークスホペイのブレンド
K系統として育てた系統です。2014年に、GXと融合します。特に活躍したオス個体は以下の個体でした(のちの図の黄色いセルの個体)。
2014年時に顎幅が以下の通りですので・・・・
恐ろしい太さのホペイでした。頭幅が小さいし、顎頭胸腹の接続に品格が無く好みから外れる個体でしたが、好みを無視して、基部が太いことを優先しました。
◆K系統×GXのアウトライン個体◆
※この頃はK+350(仮)としておりました
※2015年に立ち上がるK+350とは少し違います(後の系統図を参照)
どうでしょう、どの個体も今のGXにとても近い雰囲気がありますね。顎幅は近年の当店のホペイ達と比較するとまだまだ太くありません。それもそのはず、これらは10年も前の個体達なのですから。それでも、当時のことをありのままに説明するのであれば、K系統の1オスは突出して太かったとはいえ、当家のホペイの大半は顎幅では永くに渡り、当時のホペイ達に後れを取っていました。頭部付近の総合的な威圧感を最優先に毛等構築を続けてきたためでした。
私としては、自己満足アマチュアブリーダーとして、自分の理想のホペイを追いかけていましたから、それでよかったのでした。ですが、楽しくできないレベルで顎幅の不足を指摘されたものでしたから、それであれば超太い顎を付けてみようと、K系統のような系統を1つ作っていたのでした。そして、GX、GXとKのアウトライン、Kのインラインの3種を計画的に組み合わせ、理想の形状を崩さずサイズアップ・スペックアップを図るという取り組みを続けてきたのでした。その延長線上に、かつて当家の3大看板系統と呼ばれた3つの系統が、2015年に誕生するのです。
【2015年~2017年頃のホペイフリークの3大北峰看板系統】
・GX50
・GX48
・K+350
※それぞれにおいて若干の雌雄の親の組み合わせ違いがありました
個人的には、理想の北峰ホペイを追いかけ始めた頃から数えれば20年ほどの思い入れある歴史があるわけですが、ああだこうだと工夫を凝らし複雑に系統をからめてきたため、上記説明だけでは分かりづらいでしょう。以下に、当家の3大系統が誕生するまでの系統図を示します。
◆3大系統誕生までの系統樹◆
このように、私は1代で新系統を立てるという考え方をしておらず、当時でも最低2代、4年くらいのスパンで血統構築の計画を立てておりました。
作出した新GXと、超極太北峰を統合して、がっしりと太く大きく威圧感満点なホペイを作ろうという計画はこれよりも数年前から始まっていました。表記がCBF1でも、誕生背景の試行錯誤には4~6年かかっている。こういう系統の作り方をすることにより、累代指数が増えることによる弊害を抑止し、虫のレベルもより洗練されたものに持ち上げようという目論見でした。
⑦今に繋がる個体達の誕生
このように2015年、今に繋がる個体達が登場します。
★三大系統 GX48-A
この個体は74mm、顎幅6.9mmほどの個体でした。
GX48-Aは優良形状と、頭幅や顎幅率のアベレージが最も高かった系統でした。
後に以下のような系統に派生します。
GX48A-KC 2018年羽化、77mm、顎幅7.0mm程
GX48-A系は虫の形がカッコよく、数値のアベレージもずば抜けておりました。しかし、以下のようなデメリットがあり、2019年頃に撤退を決意します。
・幼虫体重が30g付近で頭打ちをする
・大型極太化をすると大味になる
ご覧の上記個体、GX48A-KCは2018年段階で顎幅7mmを抑えており、その上でエリトラも非常に美しい余裕の顔をした個体です。しかし、なんとなく間延びした膨張感に切れ味の不足を感じました。74mm付近ですと抜群のカッコ良さを体現するのですが、大型化しにくいのと、大型になった時の大味さから撤退をしていくことになります。
★三大系統 K+350
2015年に衝撃の蛹として登場したものです。
音沙汰無しのボトルを掘って、いきなりこの蛹が登場しました。当時の衝撃は今でも忘れられません。そしてこのような包丁顎の個体が自力羽化をしてくれました。
初代K+350 74mm、顎6.8mm
K+350は次世代の以下の二つが認知度が高い個体となりました。
二代目K+350A、2017年羽化
二代目K+350C、2017年羽化
K+350はこれらの個体が目立ったためストレート系と言われがちですが、初代はバランスが取れて、適度に顎が湾曲した綺麗な個体群でした。初代に最初の画像の包丁顎個体を使ったことで、2代目がストレート系に特化されてきました。
たったF2で特化されてきたため、形状が早く向上すると同時に、弊害も早く進行しました。弊害の原因はメス選びにありました。初代から2代目に入るに当たり、思い切り無理をしたメスを使いまくったため、2代目は上の2頭が綺麗に仕上がっているものの不全率が非常に高い結果となりました。その不全率は数代に渡って引きずられることになりました。特に翅が閉じても腹が出てしまう現象が続きました。また、K+350にはアウトでの起爆力が相対的に弱いという性能上の特徴がありました。これがK+350系の派生系統が存在しない理由です。
2020年、この傾向が改善されましたが、結果K+350は少しおとなしくなり、カッコいいホペイになりました。私としては禍々しさを求めたかったのと、K+350の改善のための試行錯誤を繰り返す中でこのタイプを超えるこのタイプよりもハイスペックな虫が出せるビジョンが持てたため、2020年に撤退をします。K+350と同じコンセプトで誕生した系統が2022年のA160-AGです。K+350を超えたキレ・威圧感・スペックを揃えて復活してきました。
★三大系統 GX50
結局、現在まで残ってきたのはGX50でした。
2015年頃は、形状面についてはK+350、GX48-Aの順に気に入っておりました。しかし今当家の残っているのはGX50系のみとなっています。GX50系が残った理由はその血の性能の高さにありました。
2015年羽化初代GX50
福建省北峰、77mm-頭幅29.0mm
この個体が最強のアタリ親でした。2年以上に渡って次世代を残してくれました。また、その次世代が恐ろしくレベルの高い系統群となり今まで繋がっています。この個体が残した代表的な系統は以下の2系統です。もっと沢山数がおりまして、また軒並みハイレベルなのですが、ここでは今日の当家の系統に関係のある個体を紹介します。
GX50-G 上記初代オスを2年目に交配し、得られた子です
福建省北峰・2017年羽化・CBF1
77mm、頭幅29.4mm、顎幅6.9mm
GX50-X 上記初代オスを2年目に交配し、得られた子です
福建省北峰・2018年羽化・CBF1
80mm、頭幅29.9mm、顎幅7.4mm
GX50-X 上記初代オスを2年目に交配し、得られた子です
福建省北峰・2018年羽化・CBF1
77mm、頭幅29.2mm、顎幅7.4mm
これらのGX50-Gと、GX50-Xが現在のGX50系の半分に繋がっています。
例えば当家の大看板となっているGX50-yyiiは、先にご紹介しているGX50-Gと以下のTRSのアウト交配で誕生しています。
TRS
福建省北峰72mm
GX50-yyii
福建省北峰、2020年羽化
68mm、頭幅28.4mm、顎幅6.7mm
GX50-yyii
福建省北峰、2020年羽化
顎幅8.1mm
初代GX50については、最初にご紹介した大当たりオス以外に2オスが今の血に繋がっています。GX50-K2系と、GX50-P2系です。
2015年羽化初代GX50
福建省北峰、77mm-顎幅6.7mm
※P2系・後のDX系にはこの個体の血が流れています
この個体は奇しくも次の世代ではコロンとした短歯を量産します。
2015年羽化初代GX50
福建省北峰、78mm-頭幅29.4mm
※K2・後のKX系にはこの個体の血が流れています
この個体は奇しくも超極太個体を量産します。
上記の親の子と、GX50-Gの交配で以下のGX50-K2が誕生します。
GX50-K2 2019年羽化
福建省北峰CBF1
そして、この個体の子がWX50-KX(CBF1)に転じ、
その後、そのインラインがKX8.3(F2)&KX303(F2)となっていきます。
※KX8.3とKX303は異なるオス親・異なるメス親の組み合わせというように、
系統をWX50-KXから系統を2つに分離したものです。
WX50-KX
KX8.3の親 2021年羽化 CBF1
77mm、顎幅最短8.3mm、顎厚6mm超
GX50-P2 2019年羽化
福建省北峰
そして、WXなどの血を汲み入れ、安定化を図りながら以下のような系統に変化していきます。
P2系→2021年:WX50-P2
※このWX50-P2とD系統を交配し、2023年のDX50が誕生します。
ここでは目立った個体のごく一部しかご紹介ができません。もっともっと色々な個体がいて、試行錯誤があり、成功も失敗もありました。その試行錯誤の末に、より良いものを残してきているのですが、当家特有の取り組みの一つとしてここで挙げておきたいのは、その系統の最上位を見て取捨選択をしてきたわけではないということです。
⑧当店の生体のコンセプト-GXはこう磨かれてきた!
「魔法の血統」と呼ばれた血がいくつか、ホペイにあったのをご存知でしょうか。仮にその血をA血統と呼ぶことにします。A血統のインラインでは、決して悪くは無くそこそこ良いなという虫が出るわけです。しかし、これをアウトで使うと殊更成果が良い。組み合わせることにより、次世代がスペックアップしたり、形状個性がより強く発現したりする。そういうことで、魔法の血統という言葉ができたようです。
この魔法の血統とは、オリジンがあると思っており、私はそれを一応は把握しているつもりなのですが、そういう血は他にもいくつかありました。私はこういう血の個性そのものを「触媒」と呼ぶことにし、自身の手持ちでの虫たちで、そういう性質をもった系統を作ることができないかと考えてきました。今回我が家の系統の誕生の背景を辿りましたが、私は生まれてくる個体だけではなく、その誕生の背景や育ちの強さに注目をしていました。累代の弊害で早期にダメになってしまわない血創りに取り組んできました。
血統・餌・環境・技術
どれが一番、結果を左右しますか?
→血統です
ブリードにおける究極の土台とされてきている考え方かと思います。これに究極に忠実に取り組んできたというのが当家の虫の一番差別化できるポイントであると考えています。環境を変えずに、徹底して血で結果を出すことを目指しました。血を改良して不全傾向などを抑止することを考えてきました。その血統・系統の育ちの強さを尊重してきました。そのために試行錯誤と厳選を繰り返してきました。同時に、他ブリーダー様方に虫をお譲りするに当たり、譲った虫の使われ方にも注目をしてきました。アウト交配をして、よりご自身のお手持ちの虫、ご自身の好みの虫の雰囲気を壊さずにスペックアップ・雰囲気向上をしたいというニーズを感じました。自分でも新しい血を作るときはそれに近しい考え方で取り組むため、アウトでの相性の良さについても尊重し、系統を改良してきました。優良個体が多く出るだけではなく、使い勝手の良い血を作りたい。
アウト交配においては、このような「触媒」的な性能を血が持っていることが大切です。系統同士のブレンドにおいて、1+1=3にしたい。そういうニーズに応えられる血を作ろうとした、ということです。
このためには、以下のようなことも視野に入れて系統のレベルアップに取り組みました。
次世代で結果を出したい訳ですので、最低2代3年単位で以下を考えていきました。
発現傾向を分析すると、次のような分析結果が得られます。
・先代の特徴を必ず引き継ぐ虫
・先代の特徴を引き継ぐ可能性が少ない虫
・組み合わせたものとの中間的発現をするもの
もっと細かく言及すると、
・引き継がれやすい部分・形質
・引き継がれにくい部分・形質
※かつ、これは血により異なる
例)A血統は顎太であり、アウトで顎が太くなる
B血統は顎太であるが、子はさほどでもなくなる
があることも確認できました。
どれも、当たり前と言えば当たり前なのかもしれませんが、こういう記録を取ったことにより、「表年」で強い系統と、「裏年」で強い系統を把握することができました。虫の発現を自分の好みに寄せていくことが、形状追求ブリードの主軸であるとは思いますが、従ってその形状の発現傾向を掌握し、コントロールすることが理想であり、表年と裏年の関連性も視野に入れていく必要がありました。そういうことがあり、メスを温存するという発想も産まれています。
GXラインは、非常に大きくなりやすく、大きくなった結果、頭部や顎もそこそこ太くなりました。汎化作用ですね。GXにはTP:Eを混ぜているのですが、このTP:Eの肌質、頭部形状の威圧感、胸部の迫力はいかなる交配をしてもほぼ100%発現しました。GXラインは、非常に大きくなり、短歯形状でも市販菌糸で79mm等が出ていました。また、多産系統であり、とにかく良く産むラインでした。4年ほど、産むことに拘り続けたので、そこに虫が応えてくれたのかなと思っています(そういう選別を継続したということです)。
初期のGXラインについては、3年ほど試行で使ってみる期間を設けました。その結果、良く産むことについては、優性形質のように、ほぼ100%踏襲されることが分かりました。顎の内歯がペラペラに薄く倒れる発現が、非常に高い確率で遺伝することが分かりました。キンキンに尖った腹の虫でありながら、なぜか交配すると中庸なサイズの腹になり、不全率を強力抑止する面白い性質があることが分かりました。TP:Eの威圧感や雰囲気が、大変濃く引き継がれることが分かりました。ほぼ100%サメ肌であり、中々ツヤ肌が出ませんでした。試行というのは、アウト交配のことですから、沢山のラインができ、その多くを淘汰していったことになります。当然、この試行の段階でもGXのインラインブラッシュアップは続けており、
・低温でグラムを乗せられること
・使用菌糸瓶を問わず結果が安定すること
・低不全率を徹底するためにA'個体は親にしないこと
・メスの卵巣を全てのボトルにメモし多産性を損なわせないこと
・体長・顎幅よりも、頭幅率を最優先すること
とにかくこの4点を軸としてぶらさないことを心掛けていました。
【GX50が残るまでの軌跡】
先にご紹介したとおり、当店はGX50、GX48、K+350を核に血を作ってきました。スペックも形も初代は全てに似ておりました。近しい雰囲気の系統群でしたが、欲しかった役割・カラー・テイストをよりはっきり持っていたものを残しました。
・大型化し体幹の太さが顕著に発達するGX50
・美しさと形状と数値を揃えたアベレージが高いGX48A
・ストレート個体の概念を覆す包丁顎が発現するK+350
これが2015年までのあらすじであり、2015年には、インラインにシフトし固定化・ブラッシュアップ化に走るか・・・・それとも更なる変化や可能性を探るために別系統同士の交配をしたり、新しい血を入れて変化を求めるかという苦悩を持つことになります。ご存じの通り、しばらくは後者の方に注力することになります。
系統内訳も、複雑なものとなっています。ただし、どれも、血統のベースは以下のようになっていることに変わりはありません。
【GX系全般の血統ベース】
・TP:E-X系統
・HO8
・張飛
・皇帝
例えばGX50-Xはセブンオークス系の血を濃くしたもののです。GX50-yyii系はTT2A、劉備・SAXが含まれます。GXをベースに血統展開をしていますから似ている個体が多いですが、加わった血の違いの分、それぞれに微妙な違いもあります。
各系統の差別化を図る公開計画を当家はいつからか”レシピ”と呼んで頂いております。このレシピの作り方に信頼を頂いており、このレシピがあっての当家の実績であるとご支持を頂いております。そして、当家は「血」で成果を出すというコンセプトで各系統を作っているため、レシピの詳細には秘密の部分も多々あります。レシピあっての実績ですから、実績を出すたにレシピを作り、種適正が高い個体や系統を次世代に繋げます。余談ですが、その結果、譲渡個体の方が当家種親よりも見た目上は格上であることも少なくありません。
2017年頃までは、100頭飼育して1頭納得のいく個体が出てくれればよいという”趣味”ステージでのブリードを行ってきました。譲渡をすると、譲渡先で結果が出るように、不良が出にくいように、よく育つようにということを強く意識するようになりました。使い勝手が良く、ベーシックな管理をきちんと行えばどこでも成果が伴ってくる、そういう血を作っていこうということに注力を始めました。そういう血が完成するまでは、血を「血統」と呼ばず、「系統」と呼ぼうと決めてきました。永くホペイと付き合ってきて、特定のラインを「血統」と呼び始めたのは2020年、本当に最近のことでした。
結果や実績の表現の在り方は、ホペイの世界では曖昧です。
体長や各部位数値や比率だけを狙う世界ではないので、分かりやすい競技的ブリードが通用しません。その結果、トップブリーダーと呼ばれる方は以下の要素を複数備えていることが多いかと存じます。
◆トップブリーダーと呼ばれるホペイブリーダーが持つことが多い実績や能力◆
・その年の最上級の個体のスペックがホペイの世界におけるトップクラスである
・トップレベルの幼虫ウェイトをたたき出す
・狙いのフォルム・ポロポーションを作出する技術がトップクラスである
・特別な技術を持っている(添加・変態補助・用品作成等)
・数年単位で見ると上記の項目のアベレージが高い
・永くに渡り同血統や同腹兄弟姉妹同士のインラインに拘り血を繋いできている
特に1番目については中々難しく、1年だけずば抜けた成果を出したらトップクラスのホペイブリーダーと呼ばれるかというとそうもいかず、数年単位で実績を見られるのがホペイの世界です。また、その結果トップクラスだけが優秀であっても中々血統は支持されません。おしなべて見た時に、同腹全個体のアベレージが形状面においても性能面においても頷かれるような水準であることを追求されますし、そういった血を作っていかなければ当家としても血統屋は名乗れません。
レシピの話に戻すと、そういうことで当家はその1腹の中の上位個体だけがずば抜けているような系統創りをある時から辞めました。
トップクラスはカッコよくて当たり前。カッコよいのが前提、と考えるようになりました。その結果、当家は個体のレベルとして最高である個体を使わないケースを作れるように努めてきました。どうしてもその腹の色々なことを総合した形状面での最高個体は親にしたいものです。どうしても使いたくなるものです。ですが、そういった個体を差し置いて結果を出しそうな個体というものがいるのです。
次世代でトップレベルがずば抜けた結果を出す、そういう親もいれば、次世代のレベルそのものを総合的に引き上げる親もいます。どちらかを選ばなければならないのであれば後者を取る。作品レベルやスペックで他個体に劣っても、その年に立ち上げる次世代に向けては最良の結果を出すであろう親を使う。こういうことを、これまでの実績に基づいて行った結果誕生するのが当家のレシピでありレシピの差別化であり、その結果生まれてきているのが当家のホペイであり当家の各系統であるとご理解ください。
各系統の血統背景については出品時の説明に記載しますが、組み合わせの背景詳細については公開ができないことがあります。上記のように、図式化しなければ示せないのですが、2015年までの系統樹or系統図であれだけの複雑さになるため、それから10年弱も経っている現在までの系統樹を作り切ることは難しいのです。こういった背景があり、現在は「系統内訳」というものを記載し、およそどのような系統で当家の系統たちが成り立っているかを示すようにしています。
では、ここから数年のGXを振り返っていきます。
2018年はスペックを狙った年で、多分10~15の顎7が全て完品で仕上がりました。顎幅は最大7.4mm、これが2頭出ています。しかし、顎幅7mm個体で手元に残したのは1頭だけ、理由は、形状がどうにも若干雑に感じられ、カッコ良さからわずかに離れてしまったと感じたところがあったからです。数値があれば良い・イイねを集められれば良いとは限らないことを、存分に数値を出したうえで感じる事ができたので、持続性のある深く重い経験ができました。
2019年は、顎幅率と、胸部に頭が乗った形状を狙い、そういう虫が出ました。顎7mmも出ましたが、数値よりも狙った形が出たことが手ごたえでした。
2019年から加速的に当家のホペイは形状のレベルと数値を両方同時に引き上げていきますが、その背景にはこのようなじわじわと時間をかけて少しずつ血とコンセプトが磨かれてきた背景があります。そしてそのコンセプトは15年に渡って変わっていません。
前半でご紹介した当家の3大系統ですが、1系統しか現在は残っておりません。
GX50です。なぜ、GX50だけが残ったのか・・・・・・・・・・
GX50が残ったのは、
当家のコンセプトに添い続けた系統だったからでした。
場当たり的に良い虫を出すでもなく、軽量の範囲でコンパクトにまとまった虫を出すでもなく、安定して結果を出し、使い勝手が良くてインでもアウトでも結果を出し、育ちの背景よりも血の性能で成果を出す手ごたえが強い系統です。一度は好みからはずれたGX50-Xも、以下のように初代を超越した形で2代目を迎えました。
もっと太い虫はいましたし、もっと守りに入れるラインもありました。もっと評価を得やすかったラインもあったかもしれせん。しかし、それは1年1年を点で見たときの話であり、数代単位で見たときにはGX50の性能面の強さは、一時の良さを凌駕する持続性のある存在価値を持っていました。
性能面も優秀でした。アウト交配で魔法の血のようなブーストをかけたり、相手方の形を尊重するように次世代が誕生する傾向が強かったり、幼虫がすくすくと育ち育ちの過程が楽しかったりと、”出したい結果を出しやすい”という性能面が頭一つ抜けていたというのもあります。
理論を固め、変わらぬ理念で虫創りに取り組んできたうえで、今回の記事を記載するにあたって発掘した画像を見ると、それでもやっぱり、「この虫、よかったなぁ」「この系統が無くなったのは寂しいなぁ」と、それはそれで感じますし、今後も感じるのでしょう。これもまた、形状追求の醍醐味の一つなのかもしれません。
一喜一憂はあるでしょうが、一喜でも一憂でも、
ホペイブリードは楽しいんです。
一喜一憂があるからこそ、一期一会がある。
だから次年度の新成虫を永遠に楽しみにできる。
ホペイは形状バリエーションを蒐集するのも楽しい種です
この楽しみを続けていくために、
当家が生体の販売でご提供できるのは期待感であると考えています。
期待感を持てる虫がいる限り、次世代を一層楽しみにできると考えています。
期待感を持てない虫は、これまでと変わらず世に出さないように努めます。
GX50は、ひと時の満足よりも恒常的な楽しさを求めた結果残った系統です。