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執筆者の写真YY

変態補助技法による系統レベルの成長の加速

当方は、ブログの頃より蛹化・羽化の補助技法を一部公開してきました(現在は記事にロックをかけています)。2023年から20年以上前から、変態中の生体を観察し、手を加えるという試行をしてきました。経緯はほぼ全てブログの方に書いてありますが、「極太だから」不全になった、「大きいから」不全になったといった理由が理由になっていないと考え、その理由を究明しようとしたことがこの取り組みの発端でした。


羽化不全を私は20年以上前に、以下のように言語化しました。

・脱皮の際に皮が上手く脱げないこと

・脱皮後に外翅が適切に閉じないこと

・脱皮後に内翅が適切に伸び、収納されないこと

今から20年ほど前の分析ですから、浅い分析ですが外してはいなかった思います。その後、毎年初夏に羽化を観察し、なぜ上記3点が上手くいかないのか、そして大きかったり極太だったりすることは羽化不全に関係があるのかを分析し始めました。その結果、以下のような結果が得られました。


・成虫の腹部が大きすぎるものは羽を閉じられないことがある

・上手く反転できなかった蛹は適切に脱皮をすることができない

・適切に反転しても羽を閉じられないものがいる

→これらは羽が伸びても正常な形をしていない


人工蛹室はかなり昔から販売をされており、その頃の羽化不全の原因は、

1.蛹室の崩壊

2.蛹室内にキノコが生えた

3.蛹室内の水分量が適切ではなかった

4.上手く反転できなかった

とされており、人工蛹室は専ら反転を上手くさせることを主たる目的としていました。「この形状だから、蛹が上手く回転できる!」という謳い文句が多かったように思います。その頃の私は4点から、蛹を人工蛹室に移せば無事に羽化できると考えておりました。ところが、人工蛹室に移したり、露天掘りをして管理をしても羽化不全になる個体が確認できました。


このことから、1,2については改善しても、極太ものや大型ものが羽化不全になる原因を改善したとは言えないと考えました。水分量については、蛹の皮が正常に破れ皮も無事に脱ぐ個体が多いことから、根本的な理由であるとは考えられませんでした。反転はできているので、4は間違いなく違いました。このことから、私は羽化不全の原因は羽化よりも前の蛹化にあると考え始めました。


国産オオクワガタや、ホペイオオクワガタの顎ずれ修正というのはメジャーだったと思いますが、顎ずれは蛹の頃から起こっているエラーなので、蛹の形状が既に正常ではないのであろうという仮説を立てました。この仮説は、外翅が伸びているのに合わさらない、つまり外翅が伸びても合わさらない形をしているという説にも信憑性を伴わせました。このことから、羽化不全の原因は蛹化の時点で芽生えており、蛹の形、特に翅が正常に形成されないことから羽化の際に問題が起こるのではないかと分析を進めていきました。蛹を分析すると、色々なところが気になったものでした。

これらの中には、不全につながるものもあれば、繋がらないものもありました。


こちらは幼虫時に顎を折ってしまった個体の蛹です。

蛹は左右非対称ですが、自力でかわいい成虫になってくれました。


ブログでは、2015年頃から取り組みを紹介、蛹の形状を修正する技術は、修正を超えた修正として、次第にオペと呼ばれるようになっていきました。


【直近ではSNSで以下のようなものを紹介】

今では、少しずつこういった技術が普及していっているように感じます。


【オペとは】

”オペ”という言語が普及しつつあります。このオペという言語が正しく使われていないため、「オペ」が本来もった意味から方法の内容がずれつつあるように感じられます。オペという言語は当家から生まれました。正しく言語を理解していただき、この工程がどのように当家の系統の性能の向上に関わっているかをご理解頂ければ幸いです。


【オペという言語誕生の背景】

少しさかのぼったところから説明をしていきます。まずは、オペという言語の誕生について言及します。2010年頃までは、変態時の調整作業は「修正」と呼ばれていました。2012年、2011年頃からは、手術と呼ぶケースも増えてきて、その過渡期を経て私の取り組み及びその頃使っていた”オペ”という言語がしっくりくるということで、一部で当家同様の取り組みが行われ、”オペ”という言葉が普及していくに至りました。抽象的な言語ですので便利であったようで、この言葉の普及の速度には目を見張るものがありました。


※顎先を接着してズレを無くした蛹

修正と言った場合は”「どの部分をどのように修正したのか」という思考を聞き手に持たせることになりますので、それに対して答える義務感も一定語る側に発生するようです。上の画像の場合は、顎先がずれていたものを合わせた、ということになりますね。修正と言っていた時代は軽い羽パカを修正したり、顎先のずれを修正したりというレベルでしか虫がいじられない頃だったのですが。それでも、どこを修正したのかという具体的な憶測が生まれる言葉であることに変わりはありませんでした。


次に手術、これはオペが外国語であり手術が日本語であるだけな話なのですが、日本人の感性においてはやはり「手術」と聞いた際に人間の手術と関連付けて考え、いったいどれほど大層な医学的取り組みを虫に対しておこなったのであろうか、ということを考えてしまう傾向にあったようです。実際に、「切除や移植をするのですか」と聞かれたこともありました。そういうやり取りの中で、手術については発信側が使用をやめていったのではないかと思われます。会話の中で、「この間の手術に少してこずりまして・・・・・実際は、少しだけ後ろ足の組み換えを行っただけなんですが。」こんなやりとりがありました。


そういう時分に、「オペ」という表現は大変しっくりきたようです。何をどうやったのかをあまり求めらず、でも特別なことはされたのであろう、という感じで使いやすかったのですね。説明を省くことができました。とりあえず「オペをした」と言えば良い。とても便利な言葉だったのだと思います。そんな風に普及した”オペ”という言語なのですが、そのオペにも、その言葉が生まれた起源があり、オペが本来指示していた行為というものがあり、私はその意味を未だに変えずに使っているため、オペとはズバリこうである、という定義を当家としては持っています。


もう、普及してしまった言葉ですから自由に使われると良いとは思いますが、当家はこれを一つの非常に有効な飼育技術であると考えています。


【補助が必要になる理由】

本来綺麗に仕上がるはずの虫が、

・自然離れをした太さにされた

・自然離れした体長にされた

・自然離れした体積にされた

・本来の形状から離れた形状にされた

・人工の円柱環境で飼育され蛹室を上手く形成できなかった

・凹凸のある人工瓶底で蛹室を作った・蛹化した

こういった不自然なことが起きてしまうことが、補助が必要となる主たる原因です。



【オペの定義】

上記、不自然な理由により自然になれなかったものを、自然でそうあるべき形に戻し、蛹化不全や羽化不全を回避すること。蛹化、羽化時に脱皮を上手く行えない個体の脱皮を補助し、配置が本来の位置取りからずれたり、形が変形してしまった各部を、本来の部位配置・部位形状に整え直すこと。



【不全のメカニズム】

次は、羽化不全の原因を、具体例も添えながらもう少し掘り下げてみましょう。


羽化や蛹化が上手くいかない理由は、

変態時に成虫にかかる圧力が、色々な理由で不自然になってしまうからである。


定番の流れの一つを紹介します。

蛹室が不自然に創られた場合は、ゆがんだ前蛹が脱皮を始めます。

以下の画像をご覧ください。

ボトルの底に蛹室が作られると、上手く羽化できない個体が出てくるというのは昔から言われてきたことです。上手くいかない理由はいくつかありますが、最大の問題はこのボトルの底面の凹凸です。このように床が盛り上がった蛹室では前蛹がまっすぐになれません。


瓶底でなくとも、このように瓶側面に作られた蛹室はバナナ型のように左右非対称であることが多いです。これを問題としない個体も多くいるのですが、問題とする個体もいます。特大や極太になるほど、こういった不自然の影響を受けやすくなります。


人工蛹室を使っても、横に倒れて蛹化を始めてしまった前蛹は綺麗な蛹に変態しないことがあります。まっすぐでないこと・まっすぐになれないことが、前蛹にとっては大事件なのです。


ですから、蛹室の床に凹凸があり、加えてその凹凸が左右非対称であることは問題です。このような不均等な蛹室で蛹化をすると、変形した蛹になってしまうことがあります。


クワガタに限らず、別種でも蛹室が不適切な形である場合は、蛹に支障が出ます。

マイマイカブリの正常な蛹


蛹室が崩れ、蛹化が上手くいかなかったマイマイカブリの蛹





理屈としては、蛹化の際に、ゆがんだ前蛹内では、真っすぐに下に抜けていくべき皮が、左右不均等に脱げていきます。

※バナナ型蛹室で蛹化させたことにより頭部が不均等に割れたもの

→その後人工蛹室に移し事なきを得た


その結果、皮によって引っ張られる各部が膨張時に均等に膨らめない配置となります。パーツがズレます。或は、特大・極太個体の場合は幼虫の頭部から内部が抜けるのに時間がかかります。蛹の頃から頭が大きかったり顎が大きかったり長かったりするからです。そうすると、中々脱げない頭部に対して本体は脱げていくという、脱げ加減に対する時差が生じます。結果、頭部と腹部の間、前蛹の皮と蛹本体の間に空間ができます。この空間ができることにより、そこにある部分、中脚や羽が先に膨張できるようになってしまいます。結果、まだ脱げておらず配置を整えられる前から羽が膨張することにより、内翅と外翅がズレます。翅がガルウイング(これも私が普及させた言語です)状態になります。


以下に、羽が巻いてしまった蛹の画像をご紹介します。

後ろ足の関節部分を見てみてください。関節部分が、羽に巻かれてしまっています。本来は、後ろ足の関節は以下の画像のように折れ目が露出しているものです。一度このように蛹にエラーが起きてしまうと、人工蛹室に移しても羽化不全になることが非常に多くなります。


正常な蛹は以下のような仕上がりをしています。


後ろ足の折れ目が確認できるのを、見て頂けるでしょうか。先の画像では、この後ろ足の折れ目を羽が巻いてしまっていました。つまり、羽が膨らんでしまっていたのです。羽が膨らんでしまっているということは、羽の形がパーツとしてそうあるべき形から変形してしまったということです。合わないパーツを持ってしまった個体が、無事に仕上がれない理由はこういうところにありました。

※極太個体でも、左右均等に皮が脱げると、きれいに仕上がることが多い




【羽化不全までのメカニズムまとめ】

一度羽化不全に至るまでのプロセスをまとめます。最も代表的なものを例に取っており、自然のものを相手にした話ですから、難病奇病が世にあるように他のケースも多々あるのですが、それでも何故不全になるのかという理由の代表格を説明するなら以下の通りです。


1.不自然な前蛹ができてしまう

・瓶飼育によるもの

・自然界と違うものを食わせ成長させたため

・不自然な太さにしたため

・不自然なデカさにしたため

等、自然離れさせたことにより不自然な前蛹ができます。

これは、ぱっと見で分からない前蛹の内部の話まで含みます。


2.蛹化時に不自然な圧力がかかってしまう

先述の通りです


3.不自然な脱皮により、各部の配置がおかしくなる

パーツが正しい形状に膨張しない


4.変形した蛹の内部で変形したパーツが形成される


買ったプラモデルのパーツが、変形してしまっていたらどうでしょう。正常に組み立てることができないと思います。パーツが変形したプラモデルを組み立てても、正しい完成品が作れないのとほぼ同じ理屈で、蛹の段階でパーツがきちんと作られていない虫は、正しい形の成虫にはなれません。これがが羽化不全の仕組みです。虫の性質に問題があるから起こることもありますが、多くは後天的・外因的な要因によって引き起こされます。ボトルという柔軟性のない容器の中で、不自然な蛹室を作った個体が、不自然な蛹になってしまい、羽化不全をきたすということです。回避の方法は色々ありますが、多頭数飼育をすれば無事に羽化してくる個体が増えます。これは、そういった問題が無い蛹を作る個体が、飼育の母数が増えたことにより増加したからです。手を加えない場合、この問題をクリアできるかは運の勝負になってきます。


ここに手を差し伸べる概念がオペです。既に変形したパーツを後から直すことは難しいです。これは先人が行っていた修正にあたります。直せる範疇が狭いです。問題がある形状に成虫がならないように、一つ前の段階から修正をすることが大切です。


このように、問題のある蛹になってしまうとほぼ完品にはできませんので・・・





【オペと血と不全の3つは直結していない】

さて、ここまで不全の原因を私はまだ「血」のせいにはしてきていません。私は不全の主な原因を力学のせいとし、不自然にかかる圧力が原因であると申してきました。不自然に力がかかった結果、不均等な蛹が出来上がることが不全の主要な原因です。血が原因で生じる不全もありますが、そうでないことも多いです。なぜそう言えるのか・・・・


それは、蛹を組み立てて整えたら綺麗な成虫になるからです

不全の主要な原因は変態過程の不自然さです。


血と言っても、ブリーダーは血=形質としていることが多いです。形質に問題がある場合は、形がおかしいわけですから補助をしても正常には仕上がらないはずです。しかし、補助をすると仕上がってしまうのです。補助をしても仕上がらない、血に問題がる個体もおります。これについては後述します。しかし、仕上がる限りその不全が血を原因とするという理屈が成立しません。そして変態過程を観察しなかった場合は、不良が起きた場合にその原因を確かめる手段もありません。憶測で話をするしかなくなってしまいます。




【血が原因の不全はないのか】

あります。血というか、その虫の性質が原因であるものは比較的メジャーです。例えば腹出しとか、エリトラの長さが足りない、そういうエラーは、その虫の性質によるもの、食性とかも含めてによるものですが、遺伝性が一定あるため、血によるものと言ってよいでしょう。病弱なものもおりますね。各部の未形成や、突然変異形状個体などもそれにあたります。脱皮がそもそも下手な個体もおります。では、そういうのを使ったら次世代はどうなるのか・・・・当然不全が多発しすることが多いです。そういう個体を親にし、子をばらまけばどうなるか・・・・そういう遺伝子が拡散する可能性が高くなります。こういったマイナスの要素に気づくことも立ち合いのメリットです。



【立ち合いのメリット⇒変態補助と血のレベルアップの加速】

蛹化をはじめとし、羽化などに立ち会い、補助をして、交配できる完品の成虫に仕上げてあげることにはメリットがあります。血統そのもののレベルを速く正確にブラッシュアップできるということです。ブラッシュアップするというのは、より優良な種親を使うことと、その系統にあるマイナスの因子に気づき、その発現を抑止することです。


先に言及した通り、エラーの根拠を見定めることができるということです。瓶を掘ったら成虫が出てきてその成虫が羽化不全だった場合は、なぜその不良が発生したのかが分かりません。虫の性質によるものなのであれば、その個体は親虫にふさわしくないでしょう。外因的・後天的な原因があったのであれば、気に入った形であれば親にした方がよいでしょう。変態過程に立ち会うことで、そういった問題の原因を見定めることができます。


もう一つは、運がよかったり飼育頭数が多いことによって得られてきた成虫を、圧倒的に高い確率でカンピン状態として手にすることができるということです。ホペイの場合は、新成虫の繁殖ができるまでに半年ほどかかります。1年1化のサイクルで飼育をしている場合、最高レベルの個体が仕上がらなかった場合は2年血統の成長が遅れる可能性があります。もちろん、最高レベルの個体は放置では仕上がらないことが多いため、補助をして最高レベルを着実に仕上げることで血統のステップアップが2年早まる、と言った方が今はまだ正確かもしれません。




【もう一つのオペから得られる大きなこと】

そもそも補助は本当はしないのが一番です。オペが不要で、瓶に放置していたらドンドン完品で凄い個体が出てくる・・・それがみんなが望むことでしょうし、当家が目指している理想です。


しかし、特大や極太といった天然物から離れた個体を目指すことが多い限り、そして容器という人工的な環境下で飼育をする限り、どうしても補助が必要な虫が出てきてしまいます。


それでも、補助を必要とする虫を少なくして、太くても大きくても無事に羽化するという不自然なのに自然な虫を品種改良のレベルで具現化させるためには、これまで偶然仕上がってきたものを必然に変えていく必要があります。正体が分からなかったエラーを、次世代の改善の糧になる根拠に変える必要があります。立ち合い補助をすることからは、以下の取り組みができるようになります。


その血の強みや弱みを理解できる。その血の不全の原因の情報収集をオペ過程で行える。

次世代での不全の確率を減らす可能性がある取り組みができる。


補助にあたっては、虫を掘り、変態の様子を観察し、虫に触れるので、視覚に加え、触覚からも情報を得ることができます。目で見てわかった不全の原因と、手で触って感じた不全の傾向を合わせて考え、次世代で同様のエラーを無くそうという取り組みが、仮設という形であっても理屈を持って取り組むことができます。



【具体的に何をすべきなのか】

以下の2点です。言葉にするのは簡単ですが、多くの虫に立ち会い切るのは中々大変です。全部に立ち会わなくても、少し観察してみるだけで次世代の選別において新しい視点がもてるかもしれません。また、変態中の個体に触れることには抵抗が大きいかと思います。記載の通り➁が難しい場合は①だけでも結果がかなり良い方向に変わります。


①不自然になった蛹室を自然な蛹室に移すことからがスタートです。

上手くいく率を高める方法は、2004年のBeKuwa12号で既に紹介がされています。

前蛹から人工蛹室に移すと、羽化不全が激減したという記事です。

➁不自然なパーツ配置を自然な配置に整えます。



【あとがき】

我が家の虫の不全率は低く、2018年、2019年、2020年、2021年、2022年は10%未満です。高スペック個体を大量生産していますが、不全率は毎年10%未満であることが多いです。2015年から8年に渡って我が家の虫は「不全回避能力を高めるため」の血としても評価を頂いてきました。理由は、徹底して立ち合い、観察を続け、それを踏まえた親選別をしてきたからです。2020年、2021年、2022年と3年にわたって顎幅8㎜台の完品を抑えられたのも、不全回避を念頭に置いた血の造り込みを行ってきたことが背景にあるように思われます。


今回は、羽化不全のメカニズムと、オペの目的とメリットを簡単に解説しました。ここで言及している以外にも、実はもっと沢山の考えなければならないことがあります。例えばポンピングの強さの個体差とか、大型血統と極太血統を比較した際の蛹の皮の質感の違い等についてはまだまだ述べていません。具体的にどのような方法があるのかについても説明ができていません。


これらについては、また近い将来、機会を作って解説をしてみたいと考えています。


P.S.

羽化不全のメカニズムを踏まえた人工蛹室の設計については、別途記事を立てております

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