永く変態に立ち会ってきましたが、過去にはスポンジ蛹室が流通していたこともあり、オアシスを掘る機会はあまりありませんでした。2017年頃よりスポンジ人工蛹室の流通が減ってきたため、蛹室の設計を開始しておりました。
特に重視したのは、長期保存ができることでした。加水してから掘るという20年ほど前から紹介されていた方法で作成をすると作り置きができません。水は腐りますので、2018年には以下のようなプロトタイプを作成しました。保管スペースを取らないこと、乾燥状態で保管できることを念頭に作成したモデルでした。
カッターとパイプで切り抜きくり抜き、なるべくバリが出ないように作成したモデルです。
2018年プロトタイプ
収納能力が抜群でした。
しかし、補助がしにくいことから、この後天井は全て取り払うことになります。
天井を取り払いましたが、側面のカーブが蛹の反転を上手く手伝ってくれました。
以下はyoutubeで紹介している当方の現在の人工蛹室の設計です。
天井は、補助に迫られた際に取り回しが良いように取り払ってあります。
動画はこちらからご覧いただけます↑
特に背面傾斜に拘っております。
蛹が正常に反転できるための傾斜であることはもちろんですが、特により大きく、より太い個体の膨張不良を抑止することが、この背面傾斜に込められた意図です。
蛹の背面のカーブについては、オオクワガタ・ホペイオオクワガタ等ではあまり違いが見られません。雌雄の違いもあまりないため、この傾き加減と湾曲加減には大きな違いを作っておりません。
文字が見にくいので、こちらでも書いてあることを解説します。
背面が斜めになっているため、蛹は赤い矢印の方へずり落ちようとします。ずり落ちようとする際に、蛹の背面の蛇腹になっている部分が引っ掛かります。
ずり落ちようとする際に、青文字の方向に反作用が生じます。腹部背面が蛇腹になっており摩擦抵抗があるため、蛹がずりおちてしまいません。これに伴い、青文字の矢印の方向の力が腹部にかかり、腹部がやや縮められます。これにより、腹部の圧縮と蛹の膨張が少し手伝われるように設計をしています。
シルエットは、それまでに愛用してきたスポンジ蛹室に近しいものにしています。これを何年も使ってきました。そして、このスポンジ蛹室をボトルに入れて、両端にティッシュを挟み込んでスポンジ蛹室の幅を狭めて使っていました。その形に近しいものとしています。
一度、垂直に切断した後なので切れ目が見えておりますが・・・両サイドはややパイプ状にカーブするようにしており、なるべく垂直に近い傾きにしてあります。これにより、顎開きの蛹や、湾曲の強い蛹、張り出しの大きな蛹といった頭部へ重心が寄った蛹でも反転を円滑に行えるように設計しています。
2枚とも無加水の状態です。くりぬきから、研磨まで一切加水をせずに作成しています。
完全に乾燥した状態でお届けするため、長期保存が可能です。加水をされない状態で保管していただくと、2~3年は余裕で持ちますし(変色はします)、乾燥状態ですから雑虫やカビ、菌なども湧きません。
この記事を執筆している2023年1月時点では、これから羽化してくる300頭ほどのオス成虫に向けて当家の分を作成しなければいけないため、即販売には回りませんが、なるべく早く、販売を再開したいと考えております。
内部の構造は2022年バージョンから更に微調整を行っております。特に、2022年に複数型取りした、瓶中央に作られた綺麗な蛹室を以て内部のカーブの度合いを調整しています。本来の自然に近い蛹室を、そして本質的に蛹化や羽化を補助できる蛹室を制作したいという想いから、「人工蛹室True Nature」として、早くて2023年盛夏の頃に、販売を開始します。
※蛹室の形状は年々改良を重ねているため、今年度版からさらに変化する可能性がございます。これで良しとせず、常にさらに上の最適解を目指していきますので、何卒ご容赦ください。