ホペイの世界に特有の難しさがあるとすると、それはホペイの品評についてであり、飼育についてではありません。また、ホペイを飼育するにあたり、品評ができる必要はありません。まずは、ご自身で満足する個体が誕生すればそれでホペイの飼育については100%楽しめていると言って過言ではありません。
品評においては、ある程度その個体の良し悪しを言語化できる必要があります。そういったことができるためには、ホペイの形状についての飼育文化を踏まえた知識が求められます。ホペイブリードはご自身の求める形を追求することを第一とする飼育文化ですから、そういった知識がなくても問題ありません。ホペイのトップブリーダーを名乗るにおいては品評ができることよりも魅力的と言われる個体を生み出した実績がものを言います。品評ができるとは、自分の好みや守備範囲外の形状についても批評ができるということです。ブリードにおいては、言語化できていない感覚的な飼育を行っていたとしても、良い虫を多く出している血統・ブリーダーがシンプルに優秀であることは揺らぎません。品評は、従って飼育には直結していません。繰り返しになりますが、品評ができなくても良い虫は出せます。
一応、飼育についてもう少しだけ触れておきます。ホペイは国産オオクワガタと極めて近しい種類です。飼育は簡単です。成虫は丈夫で長寿です。繁殖の難易度はオオクワガタ同様誰にでも取り組める入門種レベルです。繁殖については、国産オオクワガタと同じ飼育で逞しい成虫に育てることができます。最も飼育技術が開拓された分野下で飼育に取り組める種であるといっても過言ではありません。一般的な菌糸瓶で十分にワイルド離れした体長にすることができます。成虫は限度こそあれ0℃以下になっても死なず、長寿で丈夫です。性格も温厚であることが多く、当方は全て同居ペアリングを行っています。性格が温厚ですから、小ケースや1400㏄程度のプラボトルを用意してあげると、その中でおとなしくしていることが多いです。ボトルの高さがあれば、蓋などをバキバキとかじって騒がしくしたり、自身の顎を摩耗させたりということもまずありません。成虫飼育については、長く綺麗な状態で鑑賞することができます。個体の存在感についても、形状追及の世界ですから体長が及ばないむしでも通用することが多多あります。幼虫の体重を乗せることに苦手意識がある方にも優しいジャンルです。そして、形状追及と謳う程には有名血統は開拓されているので、出所が確かな優良血統や、有力ブリーダーから入手した個体からスタートすれば翌年には優良個体を手にすることができるでしょう。
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2023年度羽化で、多くの直系が出てくる予定です
今回この記事では、そういった飼育や繁殖の話ではなく、ホペイの品評について言及します。品評は、色々な観点と価値観から虫を見る取り組みです。優良個体には、ホペイに詳しくない方にも分かりやすいものがいます。「太い・大きい・仕上がりが美しい・顎の重なりが良い」この4点を抑えればまず間違いなく優良と言われます。しかし、ホペイの優良個体の中には、ホペイの世界に精通しないと分かりにくいような個体もいるのです。「細かな造形がホペイ飼育文化由来の形状をしている・各部の数値バランスや形状バランスが良い・質感などが個体像に似合っている・その時代のトップスペックを有している・作出難易度が高かったり発現率が低い形をしている」等、ホペイブリード文化や時事的トレンド、飼育難易度等様々を絡めた評価があります。これらを総合的に見て、個体の存在価値を問う、いわば鑑定のような取り組みが品評であると私は考えています。ですから、品評には知識と経験(虫の数を見てきた経験)が求められます。絶対が無い世界であり、複雑です。
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飼育・繁殖は自分の好みの個体を親虫として飼育し、より好みの個体に近づくように思い思いの交配や繁殖を自由に行えばよいシンプルな世界です。虫友と共通価値観を持って取り組むのも人気です。これに対して品評は、先述の通り自分の好みや所属するグループの価値観に極力影響されないように心がけ、平等に色々な個体を見るようしないと精度が落ちる取り組みです。ホペイ種にある形状ジャンルや、ホペイ種の飼育文化背景から尊重されてきている部位とその造形形状に詳しいことが求められ、また過去の概念にとらわれない柔軟な視点も求められます。
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品評ができるようになるかどうかは、これも趣味の世界ですから個人的に決めてしまえばよいことです。品評ができないからブリーダーとしての株が下がるかというとそんなことは決してありません。自由な趣味の世界です。個人の価値観で、品評に取り組むかどうかを決めてしまえばよいことなのです。ただ、品評は先に申し上げた程度には複雑なので、複雑なりに本質を抑えていたり、汎用性が高いカッコよくする要素を含んでいます。品評において良しとされる構造を発現している個体は、直感的にもカッコいいことが多いです。
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品評において見られやすい部分は、個体の印象や雰囲気を左右しやすい部位造形であることが多いです。ですから、品評において見られる部分について知識を持つことは、カッコいい個体を目指すにおいては有効です。重視される部位とは、言い換えれば個体の印象を影響しやすい部位であると言えます。そういう部位に優先的に注目し、カッコいいと言われる造りを持った個体を尊重することで、次世代の虫が一味違ったカッコよさを持つことが多多あります。注目される部位に自分なりの拘りを持って形状追及に取り組むと、独創性のあるホペイが生まれてくることが多いです。
個体の印象を影響しやすい部位や、その形状については、当方の羽化の頃に別途公開する予定がありますので今回は言及しません(同内容を後述しますがご容赦ください)
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先に申し上げた通り、良しとされやすい個体像を言語化するのは簡単です。「大きい・太い・仕上がりが良い・顎の重なりが良い」この4点において、後述しますが・・・相対的にアベレージより上回っていれば優良と言えますし、アベレージからの上方乖離が大きいほど優良であることは否定ができません。今回この内容を執筆しようと考えたのは、その陰に隠れてしまう・その枠に収まらない”超優個体”が存在することも知ってほしいからです。また、今回の記事をきっかけに、お持ちの血統のブラッシュアップ(文字通り、テイストやカラーを大きく変えずに魅力を強調する)の取り組み方のビジョンが浮かんでくれればと考えたためでした。
最近は飼育と血統の開拓が進み、とりわけ顎の太さが飛躍的に向上しています。そういう中で、実は超優良形状なのに、分かりやすい個体の陰に隠れてしまっている高等ホペイというものがあるように感じることがあります。特に最近ものを言っているのは太さと仕上がりの良さです。太ければとりあえずスゴイ、ディンプルが無ければおしなべて良い、という風潮があります。太いことは素晴らしいことです。仕上がりが美しいことはとても良いことです。
ですが、ホペイの形状のカッコよさというものは、そこまでシンプルにしてしまって、「否定ができない」ような守りの観点で観察するにはもったいないほど広く深い学問です。形状以外にも、色々なものが絡まりあってその個体の存在価値を評価するのがホペイの個体品評の本質です。
「ウケが悪そうだから表には出していないけど、個人的にはすごく良いと感じる」という個体を有しているブリーダーも少なくないと思われます。そういった個体には、確かに魅力が存在していて、掘り下げていくとその魅力をある程度言語化ができ、言語化してみると確かに優良であることが多いです。
※数値には有無を言わせない絶対的な効果がありそうに感じられるかもしれませんが(後述しますが)数値は実はそこまで絶対的なものではありません。顎●mmがスゴイというのはかなり無理やりな理屈になっている節もあります。
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頭部にディンプルこそあるが、極美個体と呼べる1頭
ホペイ飼育の文化背景知識というと大層な響きに感じられるかもしれませんが、それほどでもありません。時間軸としては遡って価値観を引っ張ってくる印象です。これまでに大切にされてきた形状は、今でも魅力を発揮するものであり、尊重されるべきです。ですから、そういった形状を知っておくことは大切です。これまで大切にされてきた形状といっても、ホペイ種の血統開拓はこの20年で加速的に進んだため、過去を振り返るとさほど多くの要素があるわけではありません。そういったものは、SNSやネット上で情報をかき集めたり、ホペイブリーダーとのやり取りから得られる範疇のもので十分です。それらを抑えたうえで、精鋭的品評にはのみならず、先行した観点も含め、一定の広さの時間軸を伴った評価観点を持てることが求めらることを今回の記事をきっかけに知って頂ければ嬉しい限りです。
たとえば、過去に「美しく切れ味を感じさせる、程よい顎の太さ」と好評であった太さが、時間の経過とともに「華奢」という形容をマイナスの評価感覚を帯びてされることがあります。他の個体群が太くなったことにより、相対的に見られたときの評価が変わったという一例ですが、魅力的な個体の価値観というのは、時間と共に移ろいます。人気の個体像などは年々変化し続けていますが、いつまでも新しい価値観が生まれ続けているというわけでもありません。一度重視されなくなった価値観が、再度注目を集めることもあります。
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2015年は強烈なインパクトを与えられるレベルの太さでした(6.8㎜程)。今ではよく見ると、化け物じみて太くはありません(個性は今でも通用しますが)。
美しい・カッコいいというのは抽象的であり相対的な評価です。今カッコいい個体が、数年後そうではなくなっている可能性があり、今、日の当たらないところにある発現が、数年後にカッコよさのシンボルになっている可能性が十分にあるのです。ぶっ飛び内歯と呼ばれるものは良い例でしょう。当家が10年ほど前から用い始めた言語です。今は、そういう内歯外歯の関係を特に狙っているブリーダーも少なくありません。実は、出現時は内歯が外歯を飛び越えるという「不細工」なものとして認知されることもあったのです。「YYさん、それは重なっていないよね」という言葉を頂いたのが記憶に鮮明です。「100%の重なりがあるなら、100%超えがあっても良いかと思いまして」と切り返したのも懐かしいです。今は結果論として、「尖ったカッコよさ」を体現する造りの一つとして尊重されるようになっているようです。
余談ですが、私はこれがホペイブリードの面白さの一つであると考えており、今まで注目されてこなかった血統や発現、形状がある時いきなりスターになりあがる逆転ドラマを実現することがあるのです。こう現象は、間違いなくその個体のブリーダーのみならず、他のブリーダーや新規参入者を熱くさせるといえるでしょう。
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形勢逆転の逆のものもあります。2010年頃は、「エリトラのリンクルス」と呼ばれ、玄人好みの個体の一つののシンボルでもあった上翅の皺は、極太個体の不全傾向の高さと関連付けられてしまい、今では敬遠するブリーダーが増えました。個人的には、特に上翅の皺の魅力を謳っていた順昌W38の一部の系統や、私が大ファンだったTP:Eのそういった個性が、ともするとマイナスに捉えられかねない今日この頃が少し残念です。当家は、今もエリトラのリンクルス(上翅の皺)は虫の彫りの深さを際立たせる一つの魅力であると考えていますが、極太個体が増えたことにより不全個体が増え、不全個体や極太個体には羽皺が多くみられるため、羽皺が不全個体と関連付けられてしまい、不当な扱いをされるようになったとこの現象を分析しています。過去に良しとされた造りが、良しとされにくくなる現象もあるということです。
極美肌個体ですが、魅力に欠ける個体です
全体シルエット・内歯外歯のシンクロ加減を見ると美形とは呼びたくありません
品評にあたっては、このように、少し長めの時間軸でホペイの全体像・及び各部の造形を考えられる必要があります。プラスの部位評価傾向も、マイナスの部位評価傾向も、相対的なものだからです。当方はホぺコンの運営を2年行ってきており、この記事を執筆している2023年今年もホペイのコンテストの運営に携わります。さて、去年の1位個体と、今年の1位個体を比較すると、どちらも1位なので同レベルであると言えるかというと難しいです。何が言いたいのかというと、カッコいい・スゴイ・魅力的である・・・というホペイに対する最終評価は相対的であるということです。その1位という番付は、その回の応募個体の中での相対評価なのです。去年の1位と今年の1位が仮に同じ年度に登場していたら、よほどのレアケースでない限り、それらにはきちんと1位、2位というように番付が決まるのでしょう。
GX50-X初代、顎幅7.0mm前後
顎幅について当時最上位の評価を得た個体ですが、現在はこの数値だけでそこまでの評価を得ることは難しいかもしれません。基部もよく見てください。体積があり、インパクトがある形をしていますが、幅は最近の極太物の中堅くらいの幅であるかと思われます。
話を元に戻し、今この瞬間においてその形状をどう評価すればよいのか・・・・その最適解を考えるためには、このようにして時代を逆行した考え方と先行した思考の両方ができることが求められます。トレンドだけではなく、希少性や作出難易度も考える必要があります。マジョリティは影響力を持っていますが、マイノリティも希少性という強みを持っています。様々を、総合的に、そして相対的に見ていく必要があります。
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2022年段階で、当店で最も顎の太い個体の1例
ケーススタディーとして、顎基部の幅について少し幅広い時間軸で考えてみましょう。顎幅7.0㎜を例にとります。”今となってみれば”、7㎜というのは顎を太くする飼育については通過点だったのでしょう。しかし、その顎7㎜が神格化され強烈にもてはやされた瞬間が間違いなくあったのです。「その時に『顎基部幅7㎜は通過点である』と言えたのか」・・・例えば、これが、品評能力があるかどうか、ということが表れてくる一例です。その時に『顎7は通過点』と言ったということが、品評者としての実績や信頼に結びつくこともあります。時間の流れとともにトレンドが変化し飼育と血統が開拓されますから、品評能力は常にアップグレードしておく必要があります。まずは、今のホペイ種のトレンドやボリュームゾーンをよく観察していることが大切です。そして、マイノリティに当たる個体群も平等によく見ておく必要があります。自分のところの虫以外の個体をよく観察しておくことが重要です。
※もちろん、品評において、品評をする側の予想が外れることもあります。生き物相手の趣味ですから、ここは「誤り」と失敗の焼き印を入れるより、「挑戦した結果」とポジティブに捉え、楽しみたいところです。正解探しをして消極的になってしまうよりは尊重されるべき姿勢であると当家は考えています
形状評価にはハッキリさせやすいものと、ハッキリさせにくいものがあります。顎先が入っている・入っていないというのは程度の違いこそあれ、仮の定義ができなくもないものになります。入っている入っていない論に個人の感覚が入るということであれば、90度真横を向いた顎先を「入っている」として、そこからどれほどズレがあるかを、プラスかマイナスかを別としてみればよいのです。90度未満であれば入っていない、90度であれば入っている、90度以上曲がっている場合は入りすぎている。90度を良しと仮定するなら、そこからのズレを減点すれば良い話です。屈折の角度が急なほど良いとするなら、90度曲がっているものを100点として、曲がりが甘いほど減点し、90度以上入っているものには120点等を配分すれば良いです。これはあくまで例であり、こんなにシンプルで数量的な話ではないのは承知しています。ですが、そういう理屈・理論をそれなりには言語化ができそうだということです。
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顎先がしっかりと内側を向いた個体
次に顎の太さについてです。顎が太いか細いかというのは難しいテーマです。数値が伴うので簡単であると思われそうですが、先の例のように相対的な性質を非常に強く持ち、また数値では測れない「見え方」も考えなければなりません。6.7㎜の先細りした顎と、6.4㎜の太さを維持する顎の面の広いものを比較すると、後者の方が数値を添えられなければ太く見えることも珍しくないのです。
内歯が先端につくと顎の面が広くなり、後方につくと顎の面が狭くなりますが、内歯が頭楯に近い短歯個体は顎の輪郭の内側の隙間が小さく、内歯先端付きの長歯個体は顎の内側の空間面積が広いため、短歯の方が顎シルエットの面の密度が高い印象を醸し、長歯個体には顎の輪郭面積に対する顎の内側の空間面積が広く、顎シルエットに対する顎の面積密度が低くスカスカに見えやすいという弱みもあります。
このように少し一例を出しただけでも、すこし読むのが億劫になった方もいらっしゃるでしょう。顎についてはこの程度には複雑です。数値についても、先に言及した通り太さの数量的感覚が時事的に変化します。20年以上前は6.0㎜は奇跡の太さでした。今では細めな部類に入ります。2015年付近での顎基部幅の最高レベルは7㎜でした。2020年には8㎜の完品が確認されました(yyii8.1)。2023年現在、顎幅7㎜はそこそこ普及してきています。太い細いという2択分類が難しいです。その時代の物差しで一応は考える必要があります。時代の流れとともに、太い細い感覚が変わっていくからです。
【余談】短歯湾曲が「おっ」、と言われやすい一つの理由
SNS上では映え感が求められるように思います。室内撮影の画像を多く見るので、直観的な分かりやすさがSNS上では良いのでしょう。短歯湾曲というのは(湾曲短歯)、一つのホペイブリーダーのキラーワードです。理由は、顎のシルエットに対する顎の面積に割合が高いからでしょう。当方はそういうことで、ストレート個体に対し内歯のボリュームを求めました。ストレートロングになってくると、顎のシルエットに対して顎の面積の割合が小さくなります。顎の内側の空洞の面積の割合が大きくなります。これはデメリットかもしれません。しかし、まっすぐな外歯に対しては、体積が大きな内歯を乗せやすいです。内歯が内側への肉付きを良くしても重なりを損なわず外歯に乗っかることができます。体積のある内歯を乗せることで、面の分かりやすさで劣っても顎の立体感でデメリットを抑止しようという考えでした。
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79mm、顎幅7.9mm
顎7.9㎜という数値のインパクトほどには、直観的には太く見えないかもしれない。基部を注視すると、異常な基部幅を見て取れる。内歯にボリュームがあり、内歯と外歯の高低差を強く感じることから、すらっとした顎が華奢というマイナス印象を持たせない
「顎の太さはそういうことではない」という代表的な見解が、上記とは別にあるはずです。「顎基部幅は率の世界であるべきだ」ということでしょう。では、顎基部幅の率について少し実際の数値を出して考えてみましょう。
顎基部幅10%という超極太率を考えてみます
A.体長70㎜→顎基部幅7.0mm
B.体長75㎜→顎基部幅7.5mm
C.体長80mm→顎基部幅8.0mm
言語通り、基部は率で考えよう、ということなら、上記A、B、C個体は顎基部の太さについては「同レベル」の個体であると言ってよいでしょう。しかしそうでしょうか。少しそれらについて解説をしてみます。
Aについて
体長70mmで顎基部幅が7.0mm、これは非常に生み出すのが難しい個体です。結果論にはなりますが、顎幅7mmクラスの個体は75mm~77mmくらいの間で安定します。75mm~77mmで、頭幅が28.0mm~29.2mm付近の個体で安定する顎幅です。頭と顎のマッチングを考えると、そういうことで70㎜の個体に28mm台の頭がついていてほしいということになります。70㎜ジャスト付近の個体の頭幅は、25.8mm~26.2mmくらいです。それよりも遥かにデカい頭が付いていると、顎と頭のバランスが良い感じに取れるということです。そんな超巨頭個体になるのは、顎幅数値を獲るのと同等の難しさです。ですから、体長70㎜ジャストで顎幅7.0㎜の個体というのは、そんなに頭幅を取ることは珍しく・・・70mm-26.8mm-7.0mm、このくらいの数値になることが多いです。そうなると、頭に対してとんでもなく顎基部幅が太いことになります。頭部面積に対して、凄い割合の顎面が搭載されることになります。ものすごく太く見えます。もちろん、胴体積に対する顎体積が大きいわけですから、作出難易度は相当高いです。
Bについて
そもそも顎幅の体長に対する率が10%というのがとても太いので、Bも中々厳しそうですが、それでも形状を問わず極太ものを極太個体を親にして集中的に飼育すれば普通に出てくる数値です。数値としては、75mm-28.8mm-7.5mm付近で安定しやすそうです。頭幅と顎幅の比率も安定できる感じで、写真に写すと、とても太いが超越した顎幅には見えない・・・・そんな個体になることが多そうです。
Cについて
当方は80㎜個体も、頭幅30㎜個体も、顎幅8㎜超級も生み出していますが、それでもCのような個体は沢山飼育したら出てくるという次元の代物ではないように思います。当家は形状至上主義に則りブリードを行っておりますので、いくら数値が芳しくても形状が崩れていたら親にはしません。が、これが出てきたら悩んでしまいそうだな・・・というレベルの個体です。完全に化け物だと思います。また、80㎜で顎幅8㎜ですので、幼虫の頃の最大体重も相当なヘビー級である必要があると考えられます。それが正常に蛹化し、正常に膨張し、正常に羽化をするということには、とんでもないハードルを感じます。実現した場合は、実際に手に取ったり実物を見るととんでもない化け物なのでしょうが・・・・顎基部の主張については、頭がかなり小さいというアンバランスで不細工な形状でない限り、写真写り上はやや弱いと考えられます。80㎜級ですから、29㎜台中盤~30㎜台の頭が付いていてほしいところです。そこに8.0mmの顎が付くと、写真にして同じサイズにしたときには、割と似合っているような雰囲気の基部の主張に見え、基部の化け物には見えないと思われます。現実的に飼育面のことまで考えると、このような体積の虫が無事に仕上がるとすると、巨大化した幼虫の腹部に蓄えられた体液が余すことなく上半身に入ったはずですので、頭は顎に合わせて31㎜クラスにはなっている可能性が高いと考えられます。体長80㎜で顎8㎜で正常に仕上がった虫というのはそういう次元にあるでしょうので、少なくとも2023年現在の数量的感覚においては、細かいうんちくや形状をつぶし切るほどの数値・存在価値・飼育技術の高さを示す個体であろうと考えられます。そしてここまで書いてきたように、このクラスになってくるともはや見られるのが顎ではないかもしれない。顎の太さの8.0㎜よりも、飼育技術の方によっぽど焦点が当たってしまう。そういう意味では顎の太さが”良い意味で”霞んでいると言えなくもない。そんな圏外の個体であると言え、ここまでこれほど書いた上でなんですが、この個体に対して顎の評価を頑張るのは不毛かもしれません。
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残念ながら年を越さず★になってしまったが、控えめな頭部に対してとんでもない幅の顎が乗ったことにより、画像をデフォルメしたかのような違和感まで感じさせる個体となった
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顎の面が上の個体よりもフラットであるため、非常に太く見える1頭。小ぶりであるため、仕上がりが綺麗になりやすかったのは、少しズルかったか。それをもってしても余りある高レベル個体ではあるが。
このように、数値は分かりやすいものではありますが、現実的に・正確にその個体の見え方や特別性を保証するものでもありません。Cの例のように、顎の話をしていても顎の話から脱線せざるを得ない可能性もあり、そういった見方をするのが品評です。模範解答があって、それに従って採点をする〇か×の分野は、数多の品評項目の氷山の一角にすぎません。
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なんとも言えない形状と雰囲気と質感の個体であるが、なぜだか究極の形状の一つと言われた個体。特定のジャンルに所属するような形ではないかもしれないが、各部を見ると良しとされる造形や比率をちゃっかり抑えていた
少し掘り下げてみると、このように永遠に掘り下げられるのが造形の世界です。いつまで経っても結論に行きつかず、導入を永遠と語れることに、ホペイの世界の青天井なところと、底なしなところを感じて頂けたでしょうか。
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個人的に、ストライクに近しい個体。
ここまでは、品評をするという視点から記事を書いてきました。理想状態とは、自ら自身の虫をフラットな視点で品評し、お気に入りの個体に対しても改善項目を列挙し、次世代に繋がる親選別等に活かすというサイクルを繰り返すことなのでしょう。しかし、品評を一朝一夕でできるようになるのが、中々難しいこともご理解いただけたことかと思います。また、できるできない以前に自身のお気に入りの虫については、理屈を超えてお気に入りになっていることが多いため、フラットな視点で評価をすることが難しい・・・・・評価をすることすらしたくないこともあるでしょう。
そこで、別のアプローチをご紹介します。品評については、もちろん品評をする以外に、される、という方法もあるのです。品評されることからは、学べることが多多あります。私も、虫友に当方の虫や血統について色々と意見を頂くことがあります。具体例を挙げると・・・・・当方の血については、「胸部が相対的に大きいこと」「眼上突起の発達が甘い個体がいること」が、2015年頃から指摘されたことのなかで特に記憶に鮮明なものになります。
K+350・・・前胸が広いと評価された
GX50-X・・・眼上突起はやや扁平である
他にもいろいろなご意見を頂戴しているのですが、私の中では特に先述の2点が気になりました。また、当家のホペイ全般に対して気になったわけではなく、胸の広さや眼上突起の発達の甘さは、GX50-Xについてはむしろ似合っているからプラスなのではないかと感じた・・・というように気にならないケースもありました。「眼上突起の発達が甘い」という評価は必ずしもマイナスに感じられるわけではなく、プラスに捉えられる系統もあったということです。
ただし、このような似合う似合わない・好みに合う合わないは形状追及の愉しみの究極であるため、品評からは遠ざかってしまった観点なのかもしれません。
ですから、多くの系統に対しては、指摘を踏まえてその部位をホペイ文化が尊重する形に整えようと取り組みました。例えば、GX50-yyii68については、特に次世代で胸部をより絞り込み、眼上突起をより発達させてみようと繁殖に当たりました。この意図を種親選びから反映させたからか、GX50-yyii68は初代よりも眼上突起の発達が良くなり、胸部が頭部と調和するように見える個体が増えました。眼上突起については、長さよりも鋭さを追求したかった・・・そんな言葉遊びのレベルの拘りも、次世代では及第の水準で発現されました。
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最高にお気に入りの1頭。どこどこのインパクトが・・・ということではなく、個体全体からジワジワと完成度の高さを感じる個体です。大きな個体でもありますが、細かい部位を見ても大味にはなっていません。
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横から見ると顎が分厚い、ボリューム満点の個体です。しかし、上から見た時のキレが全く霞んでおらず、むしろ端麗な印象すら感じられます。長時間手の上に乗せていられる1頭です。品評で重視される項目を抑えると、迫力や威圧感が増してもキリっとした味わいになり、飽きがこない雰囲気を醸しやすいように感じます。
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かなり独自性の強い個体ですが、メリハリのあるカーブの顎・はっきりとした顎の稜線・真横に張り出した基部・頭部前胸上翅の幅と長さが整っていることから、主張とまとまりの共存を感じる1頭です。
もっと〇〇だと良いのではないか・・・。〇〇な個体があっても良いのではないか。こういった見方が生まれると、その個体群・系統・血統の次のステージが見えてきます。yyii68については、もっと眼下突起が発達するとよかった、というブラッシュアップの余地を感じています。色々な個体が見られるようになると、本流から外れた個体の魅力を発信したくなるという面白さも生まれてくるかもしれません。この個体もアリなんじゃないか、と思い切ってお披露目するのも面白くなります。
そもそも色々な個体があって良いホペイの世界だからこそ、ホペイの世界で尊重されてきた造形に詳しくなって、これもアリ、あれもアリという形状バリエーションを肯定できるようになるのは、間違いなく楽しみの幅を広げるでしょう。その上で、自分が目指す形はやっぱりこれ、と照準を絞って磨き上げられた個体は唯一感を強めるでしょう。ノギスがいらない存在感・完成度・ホペイはこれでいい・・・・という頭打ちをしたときに、あと本当に僅かの磨き上げをするにあたって、品評で重視される項目を1つ1つ丁寧に追いかけていくと、ブラッシュアップのその先が見えることがあります。
冒頭で申し上げたように品評は鑑定のように複雑です。でも、複雑だからこそこの世界には奥行きがあり、面白さが尽きないと言えるのでしょう。造形に詳しくなればなるほど、カッコいいホペイを手にしながらその個体のその先を考えられるようになるものです。品評眼を持つことには時間がかかるでしょうが、是非ご自身の拘りの部位やカッコいいと感じられる部位の形と魅力の源泉を探してみたり、品評に出してみて、品評された内容の取捨選択をしてみてください。
もっと沢山のホペイが表に出てきて、いろんな個体でにぎわい、単純な楽しさと、尽きない面白さを持ったホペイの世界がより充実していくことを願っています。
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より具体的な「見栄えを影響する部位」「見栄えを影響する形状」についての話は、当家のホペイの羽化の頃に公開予定です
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譲渡先より、眼上突起の明瞭さと、水平張り出しの迫力に好評を頂いた個体。